『暗い所で待ち合わせ』

乙一
すごくおもしろかった

乙一作品で今のところ一番好き
乙一は最後のどんでん返しだけの奴かと思ってたけどすごいストーリー自体がしっかりしてて
今までのようにそれぞれの視点で描く技法、最後のどんでん返しだけでなく登場人物の心情とかもよく書かれててすごく読んでて面白かった
アキヒロの感情にも共感できたし

アキヒロとミチルの距離感がどことなく重松清の疾走の二人を思い出させた
アキヒロの存在を認識していく過程とお互いの存在を認め合う過程がほんとに違和感なくうまいなと思った
自分はハッピーエンドが好きだから絶対最後は悲劇的なんだろうと思ってたから終わりもすごくよかった

独特の雰囲気といい二人の微妙な関係といい
なんともいえずいいわ

p31
だれかと話をしていると、なぜかわからないが、自分が否定され続けているように思えてくるからだ。話をしている最中は、普通に応対できるし、まともなことを話すことができる。しかしその後で一人になると、会話の内容を思い出し、ひとつひとつの言葉を反芻してしまう。自分の言ったことについては自己嫌悪し、相手の言葉については様々な疑問があふれる。会話の最中には気付かなかった意思や価値観のすれ違いに気づき、打ちのめされる。自分の考えや想像していたものが、周囲の人の価値観に侵食されて、破壊されていくようでもあった。だから結局のところ、世間とは無関係になって孤立しているのが、一番、穏やかな気持ちでいられる方法だった。

p56
目がほとんど見えなくなって変わったことといえば、それまでと違って、大きな声で話すことが多くなったことだ。相手がどこにいるかわからず、不安で、とくに外では自然に声が大きくなる。依然、正式なガイドの人と話をしたとき、それは視覚障害者全員にある傾向なのだと説明を受けた。

p141
なんども叫んでいるうちに、そのようなはずはないのだが、母の姿を見た気がした。暗闇がふいに消え去り、駅のホームに、白いシャツを着た女性が立っている。辺りは静かで、電車待ちをしているほかの人間はいない。ミチルの声に気がつくと、こちらを振りかえり、手を振った。優しい顔をして、微笑んでいた。

p150
考えてはいけないと思う。それでも、ハルミの語った幸福な未来のビジョンはまぶしく輝き、ミチルの胸を焼いた。自分にはそういった未来は訪れないだろうなと考える。そうすると、悲しくなった。
ハルミの話を聞いても動じないほど、自分は諦めていなければならなかったのだ。それができていないなら、耳を閉ざしていなければならなかった。

p191
なにもしていない、あるいはなにかしているときでさえ、頭の中が大石アキヒロの存在によって占められることがある。そのことには自分で気づいていた。それを感じる瞬間、自分が弱くなった気がする。
すくなくとも彼がいなかったときは、そういったことに頭をつかうことなどなかったし、彼のいないという家の中を想像して胸が苦しくなることもなかった。
でも、その一方で、家を出る勇気を得ることもなかっただろう。強くなったのか、弱くなったのか、わからない。きっとその両方なのだ。ミチルはその不安定さを、いとおしく思った。